能楽を広めたい一心でYouTuberになりました

齊藤 信輔さん 

シテ方 観世流 能楽師



アウトドア好きな能楽師が、名所や絶景を旅をして謡をうたうYouTube チャンネル、

UTAI TRIP shinsuke_films』を立ち上げた能楽師の齊藤信輔さん。

コロナ禍で舞台の延期中止が相次ぎ、どうしようもない空白の時間に思いたちました。


能楽にまったく縁のなかった方々にも、能楽を、謡を聴いていただきたい。できれば能楽堂に足を運んでいただけますように、との思いでドローンを駆使して奥様と二人三脚で撮影、編集して動画づくりに挑戦。このYouTubeの発信はずっと続けていかれるそうです。



能楽シテ方の大槻一門の家に生まれ、4歳で初舞台。当然のように能の道に進み、小学校の文集には「立派な能楽師になりたい」と書いていました。


大学入学と同時に大槻文藏師に入門したものの、当時は能楽堂での住みこみ修行と学生生活の両立はむずかしく、やむなく学業を断念することに。20歳の春、疎水の桜が満開の京都に中退届けを出しに行きました。



今でも桜を見ると涙が出そうになるほど。忘れる事ができません。


ー能楽師としての道を選ばれたのですね。



はい、10年間の地獄の住込み修行期間を経て、シテ方観世流能楽師としての活動がはじまりました。家庭を築きふたりの子供に恵まれました。大槻文藏先生のおそばにいるおかげで名人の素晴らしい舞台にも数多く参加でき、若手能楽師の登竜門とされる『道成寺』を無事に済ませることができました。


これから女物に挑戦しようという時期に、自分との闘いの舞台に我が子を巻き込むのは恐かったのですが、娘と共演することにしました。稽古がはじまったときに、妻が入院手術。追い込まれた生活の中で娘と大曲「望月」に挑みました。


当日は、妻が無理に退院し舞台に来てくれました。ママの為にも頑張ろうと娘に言うつもりだったのに「パパ、ママの為にも頑張ろうね」って先に言われてしまいました。



ー蝶ネクタイについてひとこと


私にとっては、蝶ネクタイのイメージはキリッと引きしまった方々の衣装ですね。じつは、私自身は蝶ネクタイをつける機会はほとんどありませんが、能楽師が舞台に立つ時の袴のひもの結び目は蝶ネクタイによく似ていますね。紋付に袖をとおして袴をはき、ひもを前で十字に結び、扇を左腰にさして舞台へ向かうとき、引き締まった気持ちになります。


蝶ネクタイと袴の結び目、もちろん基本的にモノが違うのですが、安定感のある均整のとれたデザインで、なにか相通ずる精神があるように思います。


あの充実した、緊張感のはりつめた能の舞台がこの世からなくなりませんように。

今日もまた、あの蝶ネクタイのデザインを締めて・・・。